516 『アメリカの息子』 リチャード・ライト

  • 2018.12.12 Wednesday
  • 13:43

 ビッガー・トーマスは、父親のいない黒人一家の長男で、ビッガー一家は黒人専用のアパートに住み、政府の援助金で何とか暮らしを立てている。

 感化院帰りのビッガーは、いつも何かに腹を立て、イライラしているようなところがある。福祉事務所から裕福な白人の屋敷で働く仕事を紹介されているのだが、その仕事に就くのが嫌で、たった一人で店を切り盛りしている白人の店に強盗に入らないかと仲間たちを誘いこもうとする。

 だが、この当時黒人が白人を襲うなどとということは考えられないことで、仲間たちは皆尻込みをする。強盗に入ろうと言いながらも、言いだしたビッガー自身が誰より尻込みしており、ビッガーはそれを仲間たちに悟られまいとして、仲間相手に大げんかをする。

 そんな風に、ビッガーにはひどく見栄っ張りな部分と、実はひどく小心な部分があって、ビッガーはその二つの心の狭間で激しく揺れているという存在なのだ。

 

 仲間と喧嘩してしまって強盗に入る計画はおじゃんになってしまったものだから、ビッガーは、福祉事務所が紹介してくれた白人資産家のドールトン家に向かう。だが、黒人教育・福祉に熱心なドールトン家は、ビッガーが思っていたよりはるかに待遇がよく、ビッガーはこの家でなら働いてもいいと考えるようになる。

 

 ところが、このドールトン家の一人娘メアリイは、共産主義にかぶれており、裕福な資産家である父親に反発していた。最初の仕事としてビッガーはメアリイを学校に送っていくことになったが、メアリイは学校へは行かずに知人でコミュニストであるジャンのところへ行き、二人はビッガーの案内で黒人地区に行きたいと言うのだった。

 

 黒人地区に行き、ビッガーと同じテーブルで食事をし、すっかり酔っぱらってしまったメアリー。彼女は、自分こそが平等な意識を持つ新しい世代の人間だと思っていたのだろう。だが、そういったメアリーの態度は、ビッガーを不安にし、嫌悪感を抱かせるだけだった。

 酔っぱらって家に戻ったメアリイを介抱して部屋に連れて行ったものの、母親がその部屋に入って来て、自分が真夜中にメアリイの部屋にいることを気づかれたくないばかりにメアリイに声を出させまいとその口をクッションでふさぎ続け、ビッガーはメアリイを殺してしまう。

 

 もちろん、そのあとメアリイの死体を暖房用の炉に投げ込んだり、犯罪の発覚を恐れて自分の情婦まで殺したことは、かなりひどいことだと言わざるを得ない。だが、メアリイの部屋にビッガーと同じ状況でいることになった場合、他にどんな方法が取れたというのだろう? だからこそ、作中で、被告の犯した犯罪はアメリカの社会制度の必然的結果であると論証する老弁護士マックスの弁論は、その言葉に深い重みがあり、それはそのまま作者自身のアメリカ国家への告発となったのだ。

 

 『アメリカの息子』は、黒人文学=抗議小説という定式を確立した、文学史上とても重要な作品となっている。

 

 

アメリカの息子