491 『新しきイヴの受難』 アンジェラ・カーター

  • 2018.09.16 Sunday
  • 14:16

 イギリスからアメリカにやって来た若き大学教員イヴリンは、サディスティックな乳母の教育のせいで女性蔑視の性向があった。黒人による暴動で廃墟化していくニューヨークで出会ったレイラという受動的女性の典型のような若い黒人女性に強く引きつけられてイヴリンは彼女と関係を持つが、レイラが妊娠するとイヴリンは彼女に中絶を迫り、魔術的摘出手術のためにレイラは子どもを産めないからだとなってしまい、罪の意識を感じたイヴリンは砂漠へと逃走する。

 

 人間に愛想をつかして砂漠へ逃げたイヴリンだったが、その砂漠にはベウラという地下組織があって、ベウラに捕らえられたイヴリンは性転換の手術を受けさせられ、女性のイヴに生まれ変わらされてしまう。イヴリンはそれを自分のレイラに対する悪行のせいだとみなしたが、実はこれはベウラの教祖ホリー・マザーによる府県的社会とその歴史を書き換えるためのものだった。

 

 自分が女性になった身体で男性だった時の自分の精子で妊娠させられることになっていると知り、イヴはヘリコプターでベウラを脱出。だが、父権主義の権化のようなゼロに拉致され、八番目の妻にさせられてしまった。そこでイヴは自分の中にそれまでまだ残っていた男性的なものを捨て去り「女性性」を磨いていくことになった。

 

 権力を固持し虚勢を張る男性の代表であるゼロは父権性に縛られている「男性性」の虚しさの象徴であり、奴隷のような扱いを受けながらもそれに甘んじゼロのおかげで自分たちは生きていられるのだと信じ込んでいるハーレムの妻たちがいるからこそ、ゼロのような男が存在しうる。イヴは、ゼロの八番目の妻になったことで、そういった間違えた信仰が父権主義を助長しているのだということを身をもって知ることになったのだ。

 

 ところで、ゼロは、銀幕のヒロイン・トリステッサの目に射抜かれた途端、男性としての機能を失ってしまていた。ゼロはトリステッサを捕まえて彼女を成敗することで自分の能力が復活すると思い込み、トリステッサを血眼になって探し始めた。そして、ようやく彼女を見つけるのだが、なんとトリステッサは、性同一性障害で、心は女性だけれども身体は男性だったのだ。世界中で愛された銀幕のヒロインが実は男性だったという事実は、男性は頭の中でしか女性を見ていない、という作者の強烈な皮肉なのだろう。

 

 このトリステッサ、実は、ホリー・マザーに性転換手術を依頼していたのだが、マザーに断られていた。マザーにとっては、変えるべきは男尊女卑的な父権主義の男たちであって、心が女性であるならば、見かけが男であろうとマザーにはどうでもよかったのだろう。

 

 トリステッサが男だと知って腹を立てたゼロは、トリステッサとイヴに性行為を強要する。心は女性である男ともともとは男だった女性という何ともややこしい二人が、最初は強要されて始めたこととはいえ結局は強く結ばれるようになるのは、そうすることで父権主義的構図を破壊するという作者なりの工夫だったのだろう。

 

 だがついに、マザーの思惑は失敗し、ベウラは無くなる。「今ならまだ間に合う」と差し出されたかつて自分のものだったものへのイヴの意思表示は、作者の希望がかなり入っているようだ。

 

 ブラックユーモア、エログロナンセンス、強烈な皮肉。重たいジェンダーの話は、こういう風に描くしかないのか。

 

新しきイヴの受難