252 『アンナ・カレーニナ』 レフ・トルストイ

  • 2016.12.06 Tuesday
  • 15:35

 『アンナ・カレーニナ』は、アンナ・カレーニナとヴロンスキー、キチイとリョーヴィンという二組の愛の行方に、当時のロシア貴族社会の世相を織り交ぜた一大恋愛絵巻だ。

 

 田舎の領地に住んでいるリョーヴィンは、友人オヴロンスキーの妻ドリイの歳の離れたキチイにずっと思いを寄せており、求婚のためモスクワにやってくる。ところがリョーヴィンがモスクワを離れていた間にキチイはヴロンスキーから恋を寄せられるようになっていて、キチイの母親は娘にはリョーヴィンよりも見栄えのいいヴロンスキーをと考え、キチイにリョーヴィンからの申し込みを断らせてしまう。

 だが、ヴロンスキーは兄のところへやって来たアンナ・カレーニナに一目ぼれしてしまい、舞踏会ではキチイではなくアンナばかりを追い回す。そればかりか、ペテルブルグに帰るアンナについていってしまう。

 

 アンナとヴロンスキーの恋は急速で、激しい。一目見合った時からぱっと燃え上がり、燃え上がったあとは何も見えなくなってしまう。アンナとヴロンスキーの劇的な出会い、舞踏会でのダンスと、短い間にぱっと燃え上がった二人の思いが巧みに描かれ、ぐいぐい読ませる。だが、何より圧倒的なのは、二人の未来を予見させるような競馬のシーンだ。

 

 愛情のない結婚をしたため、苦しみ、破滅的な恋に身を投じていくアンナ。だが、他の女性たちは、そういった状況下でも夫に逆らうことなく、結婚生活を続けている。義姉ドリイはそういった保守的な女性の代表として描かれ、アンナと対を為している。彼女がアンナに好意的なのは、自分にはできないことをアンナが毅然としてやっているからだろう。だが、トルストイがアンナのような自立心のある女性を理想として考えていたのなら、どうして彼女はこうも不幸なのか。

 アンナは、爛熟した頽廃的なロシアの大都会における偽りだらけの貴族社会の犠牲者として描かれている。だからこそ、アンナは、そのしがらみに押し潰されて死ぬしかなかったのだろう。だが、そうはいっても、やっぱりアンナを良くは思えないのは、彼女の行為が罪でしかないからだ。

 

 一方、ヴロンスキーに裏切られたキチイとキチイに振られた純朴な青年リョーヴィンは、アンナ・ヴロンスキーの「動」に対して「静」のイメージだ。恋をして不幸になっていくアンナと、静かな幸せに向かっていくリョーヴィンの差のなんと残酷なことか。

 だが、都会の偽りの夫婦生活から離れたリョーヴィン夫婦は、トルストイの理想の生活像とはいえ、田舎での実質的な生活にも問題がないわけではない。どこで暮らすにしても問題だらけだったロシアの実情もまた、トルストイが描きたかった真実なのだろう。

 

アンナ・カレーニナ

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