363 『終わりなき戦い』 ジョー・ホールドマン

  • 2017.06.25 Sunday
  • 09:13

 これは、広大な宇宙空間での異星人との終わりなき戦いについて描かれたSFだ。

 

 画期的な新航法コラプサー・ジャンプの発見で、人類は広大な宇宙へと乗り出していくことが可能になった。だが、その進路に突如異星人トーランが出現するようになり、地球近辺の基地惑星を守るために急きょ精鋭部隊による歩兵軍団が編成された。

 ウィリアム・マンデラをはじめとする男性50人女性50人の精鋭は、ミズーリ州、惑星カーロンでの過酷な訓練を経て、半光年離れたスターゲイトに出発。そして、スターゲイトを離れたところで敵と遭遇、それ以降、戦いは全面戦争に突入し、戦況は泥沼化していく。

 

 宇宙を移動する新しい航法、加圧や外気熱などから身を守る特殊戦闘スーツ。リアルで興味深い新世代の科学技術と、迫真に迫る壮絶な宇宙戦争。その内容は未来の世界そのものだが、この話には作者の序文がついていて、ヴェトナム戦争への暗喩を込めた戦争文学を書くつもりだったが書ききれず宇宙戦争の話を書くことになったこと、この作品を読んだインドの読者がこれはヴェトナム戦争について書かれたものだと書いてよこしたこと、が記されている。

 

 熱帯のヴェトナムへ行くのに凍えるような寒冷地で訓練を行ったという愚かしさは、マンデラたちも味わっている。

 訓練中にさえ兵士が死亡するという愚かしさ。どういった敵であるか詳しく知らされることなく戦地に送られていく兵士。そして、彼らが初めてトーランと遭遇したとき、武器を持っていなかったのにもかかわらず、彼らは殺戮を続ける。彼らには、殺戮を拒否することの無いよう、後催眠がかけられていたのだ。

 

 兵士たちの心には、本当にトーランを殺戮する必要があったのかという疑問が生じる。だが、兵士であるがゆえに、彼らは命令に逆らえない。彼らが戦いを止めることが出来るのは、死んだときか、発狂したときだ。

 ごく数名の幸運な生き残りがようやく退役して地球に戻ってみると、ウラシマ効果で地球人たちとは全く違う時間を過ごしていた彼らには、もはやどこにも居場所がない。さらには、軍部は彼らを再度戦役に付かせるために彼らの新しい生活を徹底的に妨害するらしいという噂まであり、結局、彼らはまたしても軍に戻っていく。

 

 地球から遠く離れた星で、マンデラは新しく補充されてきた兵たちがみな同性愛者であることに驚かされる。地球では、増えすぎた人口を減らすために同性愛が奨励され、異性愛者は罰せられ矯正されるようにさえなっている。

 この作品が書かれた70年代は性への関心がとても強い時代だったために、セックスの問題はどうしても書かずに避けて通ることはできなかったのだということだが、同性愛者たちの中でただ一人の異性愛者として苦しむマンデラは、社会の中でどこにも行き場がなかったヴェトナム帰還兵の苦しみを描いているともいえるだろう。

 

 この作品の中でも、彼らが宇宙で戦っている間に、地球ではいつの間にか戦争反対論が広がっていて自分たちが敵視されてしまっていることに気づいてマンデラが呆然とするところがあるが、勝手に戦争に巻き込んでおいて、戻ってくれば自分の居場所はなく、自分が戦った意義さえ否定されてしまったのでは、本当に当事者の気持ちはどうしてくれるんだと言いたくもなるだろう。

 

 異性愛者の兵士たちが宇宙に滞在している間に、大々的に同性愛を進めていた地球では、また異性愛が主流になっている。それを聞かされた時の同性愛者たちの困惑もまた、自分たちだけが勝手に踊らされその挙句に置き去りにされたという行き場のない怒りであり、嘆きであるのだろう。

 

 宇宙を舞台にした壮大なSF。だが、そこに書かれているのは、無益な戦の駒として振り回された兵士たちのやり場のない思いだ。

 

終わりなき戦い