378 『ミザリー』 スティーヴン・キング

  • 2017.08.19 Saturday
  • 15:46

 気がついたら、自分は大怪我をしていて、どうやら女に人工呼吸されているらしい。その人工呼吸をしてくる女の口が臭くてたまらない。

 

 何が何だかわからない異様な状況で始まった話は、とにかく不穏な空気に満ち溢れている。主人公は、有名な作家のポール・シエルダン。雪山の道で事故に遭い、どこかに担ぎ込まれたらしい。だが、そこは、病院ではない。彼の世話をしているのは女性だが、その女性が何だか普通ではなさそうだ。

 

 その女性アニー・ウィルクスは、ポールのシリーズ作品であるミザリーものの大ファンだった。だが、ポールは実はもうミザリーものを書くのにうんざりしていて、『ミザリーの子供』で彼女の死をもってミザリーものを完結させ、新しい作品を書き上げたところだった。

 『ミザリーの子供』を読んだアニーは、ミザリーが生還した作品を書けとポールに強要する。怪我をしたポールを自宅で監禁し始めた最初からアニーの態度は異様だったが、ミザリーが死んでしまったことを知って以降、彼女のポールへの態度はさらに異様さを増していく。そして、アニーの留守に目にしたスクラップブックで、ポールはアニーの正体を知る。

 

 雪に閉ざされた人里離れた家で、孤立したまま異常な人間とともに恐怖の時間を過ごすというプロットは、『シャイニング』と同じといってもいいかもしれない。助けを求めることができない孤立無援の状態で、異常さを増していく相手からどうやって逃れるか。ポールはどうなるのか、最後までハラハラさせられるスリリングな展開は、最後まで目が離せない。読み始めたら、最後まで一気に読まずにはいられなくなる。

 

 ところで、この話、ただ怖いだけのホラーでは終わらない部分を持っている。この作品は、作家が「作品を書くこと」について描いた作品でもあるのだ。

 

 ポールは、もともと、ミザリーものという大衆向けの作品から違うジャンルへの転換を図ろうとしていた。そういった逡巡は、作家ならではのものだ。

 そうやってポールが書き上げた『高速自動車』という作品を、アニーは、駄作だと散々けなした上で燃やしてしまう。

 さらに、ポールがアニーのために書き始めたミザリー生還の話も、話に整合性がないとして書き直すように命じる。アニーは人間的には異常だったが、小説の読者としては極めてまっとうな視点を持っていた。アニーに作品の矛盾を指摘されたポールは、それをきっかけにちゃんとした作品を書こうとし始める。そして、ポールは、最後には、アニーのためでなく、自分のためにミザリー生還の話を書き続けたのだ。

 

 雪に閉ざされた孤立した家は、恐怖の家でしかなかったが、外界から閉ざされた場所と、羽目を外すものが何一つないという環境は、作家が作品を書くにあたっての絶好の条件でもあったのだ。かくして、ポールは、最高の傑作を書き上げる。これは、なんという皮肉だろうか。

 

ミザリー

PR

calendar

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< August 2017 >>

selected entries

archives

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM